建築・企画・設計・監理
(株)宮崎建築事務所 〒510-0242 鈴鹿市白子本町5-29 TEL:059-368-3330 宮崎達也 HP:http://miyazaki-archi.nobushi.jp/ mail:3839ttsy@gmail.com カテゴリ
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この経緯については、過去の日記に書いてありますが、辿るのが大変なので、特にリンクは貼らないことにします。 Yさんは結果的に山形の大学に合格して、現在、大学生活をスタートさせています。 話は変わりますが、先月、ツイッターである投稿に目が止まりました。 それは、木造の一般建築(住宅以外の建築)のトップランナーである、シェルターという会社の投稿でした。 山形に大西麻貴さんの建築(大西麻貴+百田有希/o+h)が出来、その見学会を開催するというもの。 大西麻貴さんは、東松島にみんなの家を建てていて、それは当時、私が見た中では、特に気になるものでした。 以降、建築雑誌でもよく作品を見かけるようになり、若手の中でも注目の建築家になりました。 その建物コパルは、PFI方式でシェルターが主体になって、建てられたものということでした。 写真をぱっと見た瞬間、実際に見たくなってしまい、申し込みをしました。 山形県ということしか認識していなかったのですが、後で場所を調べてみると、それは山形市でした。 思い当たることがあって調べてみたら、山形市には知っている人がいました。 それは私が参加した花巻と、釜石のリノベーションスクールでユニットマスター(講師のようなもの)をされていた、佐藤英明さん。 佐藤さんがリノベーションして、運営しているBOTAcoffeというカフェは山形市にあったのでした。 それぞれのリノベーションスクールで、BOTAcoffeの話は聞いていたのですが、土地勘がないので、はっきり覚えていませんでした。 地図で調べてみると近い(車で数十分)ので、佐藤さんにアポイントを取ってみました。 すると当日は残念ながら定休日ということだったのですが、少し時間を取って見せていただけることになりました。 BOTAcoffeの場所を調べながら、もう一つ思いついたのが、Yさんの大学のこと。 所在地を調べてみると、やはり山形市。 そこでYさんにもメールをしてみると、授業の合間に、見学会に参加するということでした。 なんだかどちらも、時間のない中、対応してもらったような感じで、少し申し訳ないところもあったのですが、無事、お二人とお会いすることが出来ました。 コパルの建築は素晴らしかったし、リノベーションのBOTAcoffeはとっても素敵でした。 佐藤さんにお会いして、さらにわかったのが、Yさんと同じ大学出身だということ。 その大学、東北芸術工科大学の先生に、リノベ界で有名な東京R不動産などを運営する馬場正尊さんがいらっしゃって、その薫陶を受けていたため、BOTAcoffeのリノベーションをすることになったそうです(※一部、独断的解釈が入っています)。 Yさんは、Yさんなりに空き家リノベーションや、リノベーションまちづくりに興味があって、調べたうえで、その大学を志望したのでしょうから、必然と言えば必然かもしれません。 でも、私としては全く違う場所で知り合った人同士が、行ったことのない土地でつながっていくということが、なんだか不思議でした。 YさんにはBOTAcoffeに行ってみるようにすすめてみました。 具体的には、全く想像はつきませんが、直接会うことでなにがか起こるかもしれないと思うとワクワクします。 #
by 3839ttsy
| 2022-06-15 11:53
| 建築
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引っ越しと言っても、借りたアパートは家具が一式揃っているタイプだったので、荷物はそんなになく車一台でやってきました。 東北自動車道を走ると、途中まで桜が咲いていましたが、宮城県に入ったあたりからは、まだ咲いてませんでした。 あのころの不安と期待の入り混じった心境は、今でも時々思い出します。 ちょうど40才になった年でしたが、知り合いは一人もいない、見知らぬ土地に来て、新しく会社で働く。 家業なので、もう就職することはないと思っていたのですが、下請けとしてカクタ設計さんに席をお借りすることになり、他の会社に転職したような気分でした。 季節もちょうど春で、新卒、新入社員の時の気持ちを思い出したりして、若返ったような気にもなりました(大いなる錯覚ですが)。 必要な雑貨関係は、近くの薬王堂で購入して、鈴子や青葉通りの仮設商店街でランチを食べる。 まだ、町中には本設のお店はほとんどありませんでした。 最初の仕事は、大槌の復興住宅で、県からの発注業務でした。 被災して家をなくした方々のお家を作るということで、自分が出来る最高のものを作ろうと思いました。 通常、当社で扱うよりも大きな物件だし、気候風土や慣例が違い、勝手がわからない所もありましたが、とにかく一生懸命やるという感じでした。 そういうフレッシュな気持ちで、仕事に取り組むことができたのは、本当に幸せだったと思います。 それから今に至るまで、釜石、大槌、山田、宮古で公共工事、民間施設の再建工事などを担当させていただきました。 仕事のやり方の違いや、デザインに関する感覚の違い、工事業者さんのマインドの違いなどに戸惑いましたが、それぞれ出来る限りのことをしたと思います。 基本設計を現地で私が行い、実施設計を鈴鹿のスタッフが行うというスタイルを考えて実行し、それはなかなかうまくいきました。 自分の仕事のためだけでなく、岩手沿岸の復興に貢献したいと思って移住したところもあり、最初はともかくボランティアをしました。 釜石の社会福祉協議会が運営している災害ボランティアに参加し、そこから仕事以外の仲間ができました。 チーム023というグループというかネットワークのようなものがあって、地元の人や、ボランティアにやってきた全国の人とのつながりができました。 さらに、東京在住のメンバーの一人が開催したイベントの手伝いを通して、応援で来ている市役所職員や釜援隊のメンバー、有志でなにかやろうとしている地元の人、Iターンで来ている人などとつながるようになりました。 それで始めたのが、尾崎100年学舎と、劇団もしょこむでした。 もともと尾崎100年学舎の壮大な復興、まちおこし構想の一部でもあった、釜石大観音仲見世のリノベーションをはじめたのは、その少し後。 釜石に来て3年経った頃でした。 釜石全体としても、ある程度インフラも整いつつある中、生活や文化や産業について考え始めた頃ではないかと思います。 個人的にも、建設や建築工事が軌道に乗り始める中、建物を設計することによる貢献度はあまり大きくないと感じるところもあり、本質的な課題を模索し始めたところでもありました。 そして、なりわいや文化の復興なくして、地域の持続は難しいと思うようになっていました。 尾崎100年学舎ではトレッキングや漁業体験による観光の推進、劇団もしょこむでは演劇や文学の振興、そして釜石大観音仲見世の復興による観光の再生をめざすことにつながりました。 ただし、尾崎100年学舎と劇団もしょこむについては、私がリーダーではないので、あくまでも私の思いとしてということですが。 その後、NEXT釜石さんが開催していた勉強会に参加し、島根県の海士町の視察に行ったことで、市内高校の魅力化ということについても貢献したいと考えるようになってきています。 海士町の山内元町長は「まちづくりはひとづくり」という理念のもと、島の高校の魅力化に取り組んだそうです。 まさにその通りと共感しました。 文字通り身一つでやってきた釜石ですが、結婚もして会社として不動産を持つことにもなりました。 全く接点のなかった職業や属性の人から、さまざまな刺激を受けました。 多くの人との出会いと別れがありました。 震災から11年を経て、釜石で出会ったIターンの人たちは、次々と地元に戻ったり、他の地域へと移り住んだりして、かなり少なくなりました。 私自身も、復興工事と呼ばれる建築工事がほとんど終了し、本業の設計が少なくなる中、現在も行っているコワーキングスペースの運営も含めた、仲見世の不動産事業で「稼ぐ」ことが出来るかが生命線だと思っています。 とはいえ得意なのはもちろん建築設計なので、もし設計のお仕事があれば、ぜひご依頼いただければと思います。 最後がどうも綺麗じゃないですが、仕事がないと続けることができない、これが単純かつ動かしがたい復興支援のリアルです。 釜援隊からフリーランスとなった妻ともども、お仕事お待ちしております。 また、コワーキングスペースco-ba釜石の会員、仲見世でお店を始める人もひきつづき募集しております。 冒頭の写真は、引っ越した年に薬師公園から見た、桜と市街地の風景でした。 #
by 3839ttsy
| 2022-05-01 15:00
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今回は異例づくしのお仕事でした。 まず、企画からさせていただいたこと。 通常、設計業務を受託するときは、何を作るかが決まっているものです。 住宅を作るとか、事務所を作るとか、工場を作るというように。 あるいは商業施設に入居するテナントの店舗デザイン(インテリアデザイン)ということもあります。 当所で設計させいただいたところだと、釜石市の魚河岸テラス内にある、ヒカリ食堂(飲食店)さんなどが、それにあたります。 いずれも、住宅や店舗や工場を作る、飲食店をデザインするなど、工事の内容は明確であり、予算も決まっています。 その事業の範囲の中で、デザイン提案を行うことはあります。 例えば、前述のヒカリ食堂さんにおいては、目の前が物流のための港湾施設なので、コンテナ倉庫風のインテリアを提案しました。 つまり、あくまでも何を作るかということと予算は決まっている中で、可能なことを提案するものです。 ところが、今回の依頼ではそれはありませんでした。 何を作るかも予算も、明確には決まっていなかったのです。 そして、もう一つは、設計だけでなく工事も請け負ったことです。 当所は従来、設計だけを行う設計事務所であり、工事は行いませんでした。 工事は工事業者が行い、その選定や、契約の補助、また設計図通りに工事が行われるよう監理を行います。 そういうスタイルの設計事務所は、建物を建てる工事を手掛ける場合は、一般的だと思うのですが、一方でテナント工事(インテリアデザイン)の世界では、設計(デザイン)と工事を一括で行う会社が多いようです。 今回はテナント工事ではないけれど、商業施設内の小規模かつ、短期間で完成しなければいけない工事だったので、後者の業態を真似てみることにしました。 ご依頼の内容は、サンフィッシュ釜石のお客さんや、テナントさんが増えるように、提案と工事をしてほしいということでした。 予算も提示いただきましたが、内容によっては予算を増やしてもいいということでした。 最初は従来の業務と違って、とっかかりがないため、なかなか手を付けることが出来ずに、フラフラと現地を見に行ったりしていましたが、ある時ふと思いつきました。 シェアキッチンのようなものを作ってはどうだろうかと。 予算にも合いそうでした。 なぜキッチンを作るのか、まず自分自身の体験による2つの目的が浮かびました。 ひとつは去年からハマっている釣りからの着想です。 三陸は魚が豊富で、釣れるものもおいしいです。 釣れた魚は持って帰って、家でさばくのですが、アパートなのでキッチンが小さいし、まな板などもペラペラなものしかなく、3枚おろしなどがやりにくいのです。 まな板は買えばすむことですが、大きいキッチンはのぞめません。 また、それでも私は釣り場から家が近いからいいですが、遠くから来ている人は、家に帰ってからさばくのも大変だろうと思います。 釜石に釣りに来ている人は内陸(盛岡、花巻、北上など)の人が多いそうなので、釣った魚をすぐにさばいて、一部はその場で刺身で食べられるような場所があったら、嬉しいだろうと思いました。 ではお店になんのメリットがあるかと言うと、家族の期待を背負って内陸から釣りに来て、釣果が思わしくなかった場合は、魚を買いたす人もいるのではないかと。 最近釣りブームで、釜石にも釣り人が増えており、釣り人が立ち寄るようになることで、来場者が増え、売り上げも伸びると考えられます。 もうひとつは、遠方から来る友人などのアテンド(案内)をしたときに思ったことです。 釜石の魅力は季節によって、旬の食材があって、それがどれもおいしいことです。 でも、その食材をどこで食べられるのか、食べるところがあるのか、地元に住んでいても、なかなか把握できません。 居酒屋の黒板メニューにはあるのでしょうが、入ってみないとわかりませんし、その日にあるのかどうかもわかりません。 一方、サンフィッシュ釜石にいけば、海産物の旬の食材があるかどうか一目瞭然だし、ほぼあるだろうと確信できます。 それを買って、その場で調理をすれば、それ自体も楽しい体験になるし、確実に旬のおいしいものを食べることが出来ます。 お店のメリットとしては、直接的に食材が販売できるし、そうしたお客さんと関係を結ぶことで、定期的にお取り寄せの注文が受けられる可能性もあります。 実際、以前サンフィッシュ釜石に案内した鈴鹿の友人が、後でお取り寄せをしていたこともありましたので、そのような効果は大いに期待できるはず。 以上は、観光や釣りなど遠くから来る人をターゲットにしています。 さらに地元の需要喚起として思いついたのが、キッチンがあれば魚をさばける人を育成できるのではないかということ。 我が家もそうなのですが、ある程度の年齢層より若い夫婦の家庭だと、加工していないそのままの魚を買ってきて、さばくということをしなくなってきているのではないかと思います。 魚をさばくことが、そもそも出来ません。 長い目で見ると、このままでは、いつか加工していない魚は売れなくなるのではないでしょうか。 するとサンフィッシュ釜石の中の鮮魚店さんは、売り上げが先細ることも予想されます。 キッチンを作ることで、魚をさばける人を育成するための施設として、活用できるのではないかと思いました。 自前で魚をさばく教室を開くことも出来るし、教室でなくとも購入の際に、鮮魚店さんからさばき方を教えてもらえるとなれば、買いに来る人も増えるかもしれません。 また、自前でなくても、持ち込み企画として料理教室を開いてもらえば、食材も買ってもらえて一石二鳥です。 そして長い目で見ると、魚をさばける人を増やして、永続的に魚を消費する流れを作ることが出来るのではないか(出来たらいいな)と。 そんなことを考えて、魚がさばけるように大きくて、汚れても水で流せるような、ステンレスでプロ仕様のキッチンを作ることを、ご提案しました。 プレゼンはなかなか緊張しましたが、サンフィッシュ釜石の組合やテナントの皆さんに賛同いただき、設計から工事までを一括で請け負いさせていただきました。 自分が魚をさばいた経験から、使いやすいと思うキッチンを設計し、オーダーメイドで発注。 棚や配管工事は地元の工事業者さんに依頼しました。 そのキッチンが先週完成し、引き渡しさせていただきました。 今回のご依頼はチャレンジングではありましたが、結果的にいい形で実現できたと思っています。 復興工事が大部分完了して、新築工事がなくなるなか、新たな事業の可能性が広がったようにも思います。 関係者のみなさま、本当にありがとうございました。 今後はサンフィッシュ釜石さんのほうで、運用に向けて準備する流れになると思いますが、そちらにもご協力させていただきたいと思っております。 なにより運用開始が楽しみです! #
by 3839ttsy
| 2022-03-14 19:31
| 建築
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造形実技や建築の専門知識の勉強に力点を置いていたので、一般の受験に切り替えるのが大変だろうと思っていました。 また、大学入試共通テストの時期は、コロナの蔓延や、トンガの火山噴火による津波で受験が出来ない生徒が出てくるというようなニュースもあって、心配していました。 そのYさんから「お願いがある」という旨のメールが来たのが1月19日。 共通テストは無事に受験でき、行きたい大学(総合選抜で受けたのとは違う大学)の試験に面接があるので、指導してほしいということでした。 共通テスト+面接で受けられる試験があり、面接では自己アピールのための「作品」を持ち込むことが出来るため、それをこれから作るのだと。 送られてきた資料を見ると、試験日は1月31日で、期間はほとんどないし「作品」というのがどういうものなのか不明。 これはどうしたものかと思いましたが、一方で、前回の試験では結果的に役に立てなかったので、もう1回チャンスが与えられたと思いました。 私が大学受験した頃は建築学科といっても、普通の科目での受験しかありませんでしたが、最近は専門的な内容もあって、受験方法も多様化しているんですね。 だいぶイメージが違っていたようです。 オンライン講義の時と同じように、zoomでの面談を行ったところ、自分の住む町の空き家をリノベーションするという提案を持って行きたいということでした。 提案そのものは面白いと思ったので、それを1枚の紙にまとめる方法をアドバイスしました。 何度かの添削を経て、風景を含めた外観のパース、施設の内観のパース、鳥瞰図(空から見たパース)の3面と、イラストを交えた説明文、グラフなどもあって、よくまとまったプレゼン資料が出来ました。 昨年から練習してきた、パースのスキルが発揮されていました。 他の受験生のレベルが全く不明で、そもそも「自己をアピールするための作品」がどういうものなのか不明でしたが、少なくともYさんの実力からすると最高のものが出来ていると思いました。 試験当日は大雪が心配されましたが、受験は無事終了したというメールがあり、あとは合格を祈るのみ。 2月17日、最初に電話がかかってきたのは、高校の先生からでした。 昨年、オンライン講義を始める前に、先生も交えて面接を行ったのですが、その先生でした。 結果は合格。 持ち込んだ作品のみならず、昨年から教えてきたことが面接でも生かされたと言っていただきました。 その後、すぐYさんからも電話がありました。 第1志望の大学ではありませんでしたが、合格した大学は、私も知っている建築家やリノベーションの世界で有名な方が講師をしており、レベルを落としたという感じではなく、あくまでも自分の目標に沿って選んだ大学だと思います。 面接と専門的な科目だけで合格するより、一般の科目も勉強した方がよかったと思うし、私に教えられたことも無駄にならず、結果的にはより多くの学びになったのではないかと思います。 そして、まずは一つ肩の荷がおりました。 自分の住む町をよくしたいという大きな志と夢、これからも応援していきたいと思います。 (トップ画像は、私が水彩パースの描き方を教えるために描いたものですが、今はYさんのパースのほうが上手かも…) #
by 3839ttsy
| 2022-02-26 11:47
| 建築
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白子は「しらこ」と読まれることが多いですが「しろこ」と読みます。 白子の伝統産業である伊勢型紙は、一見切り絵のように見えますが、切り絵ではなく着物を染めるためのものです。 私は子どものころからずっと、切り抜いた部分に色がつくのだと思っていましたが、何年か前にそれが逆であると知りました。 つまり切り抜いた部分は染まらず、それ以外の部分が染まります。 染めの詳しい方法については、知識があいまいなので書きませんが… なぜ逆なのかわかったかというと、伊勢型紙でオリジナル手ぬぐいを作ったからです。 釜石で運営しているコワーキングスペースのオリジナルグッズとして、手ぬぐいを作ったのですが、イラストを釜石のイラストレーターさんに描いてもらい、白子の型紙職人さんに彫ってもらったのでした。 言うまでもなく想像がつくと思いますが、他の伝統産業と同じく伊勢型紙も存続の危機にさらされています。 まず着物の売り上げが減っていること、そして新しい染めの技術が出来たこと。 今は機械でプリントすることが出来るようですね。 また、型紙を彫る職人も減ってきており、高齢化が進んでいます。 平均年齢は75才だそうです。 そんな話を聞いたのは、今日、型紙を販売しているオコシ型紙商店さんに行ったからです。 設計させていただいた、株式会社ヨシザワ様の新社屋のインテリアに、伊勢型紙を使って欲しいというご要望があり、設計に組み込んでいたのですが、工事が進んでいよいよ型紙を決める時期になりました。 そのために、本日、オコシ型紙商店さんにお邪魔して、選ばせていただいたのでした。 伊勢型紙を使って欲しいというご要望を聞いたとき、正直言うと私はあまり乗り気ではありませんでした。 なぜなら、伊勢型紙の紙は和紙に柿渋を塗ったものであり、濃い赤茶色をしていて、白が基調のインテリアに合わないと思ったからです。 でも、ともかくオコシ型紙さんに相談に行ってみることにしました。 そこで「型紙を白く塗ったらいい」と教えていただきました。 実際にそうして建物のインテリアに使った例があったそうです。 白く塗ることで「白と半透明」のデザインコードにもマッチするので「それでいこう!」ということになりました。 その時と同じく、今回もオコシさんのほうから相談されたのが「伊勢型紙をもっとインテリアに使えないか」ということです。 伊勢型紙を額に入れて飾ったり、照明器具のルーバーとして使ったり、襖に張ったり、ガラスで挟んでランマ飾りにするようなことは、ずいぶん昔から行われています。 また、近鉄の白子駅には地域振興のためか、伊勢型紙の柄がグラフィックデザインとして使われていたりします。 その他、鈴鹿サーキットのF1マシンを実物大で、伊勢型紙で作ったものなども見たことがありました。 しかし、そういう努力に対して申し訳ないのですが、私はどれも本質的でない気がしていました。 今回もお施主様の要望で、ガラスで挟んで手摺の飾りに使うことにしたのですが、それはそれで面白い使い方ではありますが、伊勢型紙の存続につながるとは思いません。 そういう使い方であれば、手で彫らなくても図柄をパソコンで入力して、レーザーカッターで切れば早く安価に出来るし、柿渋を塗った紙である必要もありません。 柿渋を塗るのは、何枚も反物(たんもの)を染められるように、防水性、耐久性を高めるためです。 図柄のデザインに価値があるという考え方もありますが、デザインを利用するだけでは、型紙の技術や文化自体は残りません。 価値は手彫りと手染めであるということにしか見出せないと思うのです。 ある種、オカルト的な考え方であることは否めませんが、人が時間や労力、蓄えた経験と技術、思いなどをこめて作ったものほど、長く愛用できるプロダクトであると私は思っています。 手で彫って、染めたものであるからこそ、長く愛着を持って使える着物が出来るのでしょう。 そうでなければ、図柄をスキャンしてプリンターで染めるほうが合理的です。 明かりのルーバーに使ったり、襖に貼ったりするためのものを作るなら、レーザーカッターのほうが合理的です。 信じられないほど細かい模様を、手で彫っていることに価値があるわけで、機械なら「そりゃできるでしょうね」としか思わない。 そうしたことを考えると、伊勢型紙の存続は本当に難しいなぁと思うのです。 少なくとも、布ないしは、なんらかの素材を染めるために使うことは、必須ではないかと思います。 もちろん、着物文化が存続するのが一番ではあるのですが、それが望めないなら、建築かインテリアの分野ででも、有効な活用方法を見つけられないかなぁと思っています。 #
by 3839ttsy
| 2022-02-05 19:40
| まちづくり
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